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脱・停滞期!エンゲージメント向上の鍵は「自己理解」にあり!組織の自力を高める本質的アプローチと管理職の役割


エンゲージメント向上の「限界」を感じていませんか?


人的資本経営の潮流の中、多くの企業が組織の健康状態を測るために「エンゲージメントサーベイ」を導入しています。しかし、導入から数年が経過し、多くの人事担当者や経営層が共通の悩みに直面しています。

「最初は順調にスコアが伸びていたのに、3年目くらいから頭打ちになっている」

「給与や制度を改善しても、数値が一向に上がらない」

「現場の管理職が疲弊しており、1on1が形骸化している」

もし、あなたの組織がこのような「踊り場(停滞期)」にいるなら、これまでのアプローチを見直すタイミングかもしれません。

従来の「与える対策」だけでは限界がある

「従来のやり方(衛生要因の改善)だけでは、これ以上エンゲージメントは向上しない」という現実がエンゲージメント向上に取り組む企業の状況から明らかになってきています。

心理学者ハーツバーグの二要因理論でも示されている通り、給与や労働条件といった「衛生要因」は、不足すれば不満を引き起こしますが、満たされたとしても「満足(動機づけ)」に直結するわけではありません。これらはあくまでマイナスをゼロにするアプローチであり、ゼロをプラスにするアプローチではないからです。

本質的な解決策は「自己理解(セルフアウェアネス)」

では、どうすればこの「3年目の壁」を突破できるのでしょうか?

その答えは、組織の外側(制度・環境)ではなく、従業員一人ひとりの内側(自己理解)にあります。

  • 自分の強み(Can)は何か?
  • この仕事の意義(Will)は何か?
  • 組織から求められていること(Must)は何か?

これらを従業員自身が深く理解し、自分の言葉で語れる状態(言語化)を作ること。そして、管理職がその「言語化」を支援する役割へとシフトすること。これこそが、組織の自力を高め、持続的にエンゲージメントを向上させる道です。

本記事では、サーベイ結果が停滞する本当の原因を解き明かし、明日から実践できる「自己理解を促すマネジメント手法」を徹底解説します。


なぜエンゲージメントスコアは「踊り場」を迎えるのか


多くの企業が陥る「スコアの停滞」。その背景には、サーベイの運用自体に潜む「3つの罠」と、対策のアプローチミスが存在します。


サーベイ結果を歪める「3つの罠」


エンゲージメントサーベイを実施する際、出てきた数字を鵜呑みにしてはいけません。データの精度を下げる要因として以下の3点が挙げられます。

特に深刻なのが「自己認識不足」です。自分は何にやりがいを感じ、何が不満なのかを言語化できていない状態で回答されたデータをもとに対策を練っても、的を射た施策にはなり得ません。精度の高いデータを得るためには、まず従業員の「自己理解(セルフアウェアネス)」レベルを引き上げる必要があるのです。


「衛生要因」への偏重という限界


スコアが上がらないもう一つの理由は、対策が「衛生要因」に偏っていることです。

 衛生要因とは(ハーツバーグの理論)ー
給与、労働条件、人間関係、福利厚生など。「不満を予防する」効果はあるが、「積極的な仕事への意欲」を生み出す力は弱い要素。

企業が良かれと思って行う「残業削減」「手当の増額」「オフィスの改装」などは、多くがこの衛生要因へのアプローチです。これらは「働きやすさ」を向上させますが、それは受動的な快適さであり、仕事への能動的な熱意(エンゲージメント)とは別物です。


「従業員満足度(ES)」と「エンゲージメント」の決定的な違い


ここで改めて定義を確認しましょう。「従業員満足度」と「エンゲージメント」は似て非なるものです。

 従業員満足度(ES)ー
会社から与えられる待遇や環境に対する満足度。「居心地の良さ」を示す指標。
  高まると→定着率は上がるが、必ずしも業績向上や主体的行動には直結しない。

エンゲージメント(ワーク・エンゲージメント)ー
仕事への情熱、組織への貢献意欲。「働きがい」を示す指標。活力、熱意、没頭の3要素で構成されることが多い。
  
高まると→主体的な行動が増え、業績向上や顧客満足に直結する(プロアクティブな状態)。

衛生要因(ES向上策)は「キリがない」取り組みです。ある程度改善されると、それが当たり前になり、さらなる要求が生まれます。

停滞期を脱するには、与えられるのを待つ姿勢から、「自分の内側からエネルギーを生み出す」状態へと従業員の意識を変革する必要があります。そのドライバーとなるのが「自己理解」なのです。


ドライバーとしての「自己理解(セルフアウェアネス)」へのアプローチ


エンゲージメントを高めるための「内なるエンジン」となる自己理解。具体的には、キャリア開発のフレームワーク「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(すべきこと)」の3つの輪で考えます。


エンゲージメントが高まる「正しい順番」


この3つの輪が重なり合い、大きく広がっていくほど、人は幸福かつ主体的に働けます。しかし、特に若手や自信を持てない層に対しては、広げ方に「正しい順番」があると考えられています。

  1. Must(すべきこと・役割) まずは目の前の課題や役割に取り組む。
  2. Can(できること・能力) Mustに取り組む中で場数を踏み、「できること」が増えていく。
  3. Will(やりたいこと・意志) できることが増えると視野が広がり、「もっとこうしたい」「あんな貢献がしたい」という意志が芽生える。

一般的に「Will(やりたいこと)」から始める重要性も説かれますが、実務経験の浅い段階では、まず「Must → Can」のサイクルを回し、「自分にはできることがある」という自己効力感を高めることが、結果的に強いWillを生み出す土台となります。


若手・Z世代が直面する「言語化の壁」


しかし、現代の若手社員(特にZ世代)は、このサイクルを回す上で2つの大きな壁に直面しています。

Can」の言語化不足による自信喪失

経験の浅い若手は、圧倒的に「Mustの経験不足」です。そのため、自分の中に「Can(できること)」が蓄積されている実感を持てません。

「自分には何の強みもない」「成長している気がしない」

そう感じてしまうと、次のステップである「Will」を描くことができず、「このままでいいのか」というキャリア不安(いわゆる「キャリア迷子」)に陥ります。真面目な人ほど、自分の成長を感じられない環境に見切りをつけ、早期離職してしまうのです。

「意味と意義(Will)」への渇望

Z世代の特徴として、仕事に対する「意味と意義」を強烈に求める傾向があります。

「この仕事は社会の役に立っているのか?」

「自分がこれをやる意味は何なのか?」

ここが言語化できないと、彼らのエンジンはかかりません。実際、退職理由の多くに「仕事の意味・意義を感じられないこと」や「成長実感の欠如」が含まれていることからも、彼らにとっての「納得感」の重要性がうかがえます。


必要なアクション「言語化の支援」


ここから導き出される解決策はシンプルです。組織は、従業員(特に若手)に対して以下の「言語化」をサポートする必要があります。

  • Canの言語化支援
    「君はこういう経験を通じて、こんな力がついているよ」と他者(上司)視点でフィードバックし、気付かせる。
  • Willの言語化支援
    「この仕事は誰のどんな役に立っているか」「会社の成長が社会にどう貢献するか」という意味付けを対話の中で深める。

自己理解は一人では難しい作業です。特に経験の浅いメンバーには、鏡となって照らし出す「支援者」が必要です。それこそが、管理職の新たな役割なのです。


管理職の役割転換 「評価者」から「言語化の支援者」へ 


エンゲージメント向上の鍵を握るのは現場の管理職です。しかし、従来の「管理・評価」型のマネジメントでは通用しません。求められているのは「言語化支援者」へのマインドチェンジです。


評価面談を「言語化のセッション」に変える


多くの管理職にとって、評価面談は「通知表を渡す場」「目標達成度を確認する場」になりがちです。しかし、「部下の言語化を支援する場」と再定義することでグッドサイクルが回り出します。

「評価のための評価」をしていては、面談のたびに部下のエンゲージメントは下がります(ダメ出しをされた気分になるため)。

一方、「あなたの成長を確認し、次のWillに繋げるための時間」として面談を行えば、評価のたびにエンゲージメントが上がっていく仕組みに変わるのです。


独自のフレームワーク「イグニッション・マトリックス」


では、具体的に何を話せばいいのでしょうか。ここで紹介されたのが、自己理解の3要素(Will/Can/Must)と、ドラッカーのマネジメント3要素(成果・価値・育成)を掛け合わせた「イグニッション・マトリックス」(※当社独自のフレームワーク)です。

この9つのマス目すべてについて、部下が自分の言葉で語れる状態を作ること。これがマネジメントのゴールです。

すべてのマスが埋まったとき、部下は「自分が組織で何を求められ(Must)、何ができ(Can)、どこを目指すのか(Will)」が明確になり、迷いなく走れる状態(=高エンゲージメント状態)になります。


上司は「鏡」になる 「見解を示す重要性」


この対話を行う際、上司は単なる「聞き手」ではなく、「鏡」になる必要があります。

「鏡」とは、上司自身が自分のWill/Can/Mustを語ることを指します。

部下に「君のWillは?」と問う前に、上司が「私はチームをこうしたいと思っている(Will)」「私は実はここが苦手だが、ここなら貢献できる(Can)」と自己開示するのです。これは正解である必要はなく、あくまで「一人の見解」で構いません。

上司が自己開示することで、「ジョハリの窓」で言う「開放の窓(自分も他人も知っている領域)」が広がり、心理的安全性が高まります。また、上司というモデルを見ることで、部下は「自分はどうだろう?」と自己を投影しやすくなります。これを繰り返すことで、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱する「成功の循環モデル」(関係の質思考の質行動の質結果の質)における「関係の質」が高まり、好循環が生まれていきます。


「言語化支援者」に求められる対人支援スキルとリスキリング


「言語化支援」を実践するためには、DXスキルなどのテクニカルなスキルではなく、アナログで人間的な「ノンテクニカルスキル(ヒューマンスキル)」のリスキリング(再習得)が不可欠です。


必須となる3つの対人支援スキル


小池氏は、言語化を促すための代表的なスキルとして以下の3つを挙げています。これらは基本的なスキルですが、「言語化支援」という目的意識を持って使いこなす必要があります。

   聞く(Listening

  • 目的  信頼関係の構築と現状の把握。
  • ポイント  上司が自分の武勇伝を語るのではなく、部下に話させること。「それってどういうこと?」と深掘りし、部下の思考を整理する手助けをする。

     ② 伝える(Assertiveness

  • 目的  気づきの提供(フィードバック)。
  • ポイント  一方的に叱責するのではなく、率直に、かつ対等に伝える(アサーション)。「君はこう考えているようだが、私からはこう見えているよ(Canのフィードバックなど)」と鏡として事実を伝える。

コーチング(Coaching

  • 目的  未来への行動変容。
  • ポイント  「なぜ失敗したのか」という過去の原因追及ではなく、「次はどうすればいいか」という未来の解決策を引き出す。イグニッション・マトリックスの空白を埋める問いかけを行う。

「世代論」との掛け算で効果を最大化する


これらのスキルは、単独で使うよりも「対象理解(世代論)」と組み合わせることで効果が最大化します。

例えば、Z世代に対して「黙って俺についてこい」というスタイルで接しても機能しません。彼らが「意味と意義」を重視し、「失敗を恐れ正解を求める」傾向があることを理解した上で、上記のアサーティブなコミュニケーションやコーチングを使うのです。

「誰に対して」「なぜそのスキルを使うのか」という背景理解(Why)があって初めて、スキル(How)は生きたものになります。


まとめ 組織の自力を高めるために今すぐできること


エンゲージメント向上の取り組みが停滞しているなら、それは「与える施策」の限界を示しています。これからは、従業員一人ひとりの内側にある「自己理解」に火をつけるフェーズです。

【本記事の要点まとめ】

  • 踊り場の原因  自己認識不足によるデータの精度の低さと、衛生要因(待遇改善)への偏重。
  •   解決の方向性 Must→Can→Will」のサイクルを回し、言語化させること。特に若手の「Can(自信)」と「Will(意味)」の欠如を補う支援が急務。
  • 管理職の役割  評価者から「言語化支援者」へ。イグニッション・マトリックスを用いて、9つのマス目を埋める対話を行う。
  • 必要なスキル  聞く・伝える・コーチングの再習得と、世代特性の理解。

【明日から始めるNext Action】

まずは次回の1on1や評価面談で、以下の問いかけを一つでも試してみてください。

  1. Canの支援 「今回のプロジェクトで、自分が一番成長した(できるようになった)と思うことは何?」
  2. Willの支援 「この仕事を通じて、誰にどんな『ありがとう』と言われたい?」
  3. 上司の自己開示 「私はこのチームを将来こうしたいと思っているんだけど(Will)、どう思う?」


エンゲージメントの向上は、一朝一夕には成し得ません。しかし、対話の質を変え、個人の解像度を高めていくことは、確実に組織の「基礎体力」を高めます。


表面的なスコアメイクではなく、強い組織を作るための本質的なアプローチとして、「自己理解の促進」に舵を切ってみてはいかがでしょうか。

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