従業員エンゲージメント向上のエッセンス 『自己有用感』とは?
現代社会は、VUCAと呼ばれる不確実性、複雑性、変動性、そして曖昧性の高い時代を迎えています。このような環境下において、企業は人材こそが最大の資産であるという認識を深めています。人材不足や採用難が深刻化する中、人的資本の重要性はますます高まっているのです。
一方で、「従業員エンゲージメント」という言葉は、ビジネス界で頻繁に耳にするようになりました。しかし、この言葉は漠然としたイメージで捉えられがちであり、特に現場レベルで正確に理解されているとは言い難い状況です。
本記事では、従業員エンゲージメント向上の一つの要素として、「自己有用感」に焦点を当て、以下の点について深く掘り下げていきます。
▼自己有用感とは何か?概念の定義と、従業員エンゲージメントとの関連性について解説します。
▼なぜ自己有用感が重要なのか?従業員のモチベーション向上、生産性向上、離職率低下など、具体的なメリットを説明します。
▼組織で自己有用感を高めるためにできること。具体的な施策や取り組み事例を紹介し、実践的なヒントを提供します。
目次[非表示]
- 1.自己有用感とは?
- 2.自己有用感の重要性
- 3.自己有用感が高い人・低い人の違い
- 3.1.自己有用感が高い人
- 3.2.自己有用感が低い人
- 3.3.自己有用感が高い人の組織内での状態
- 3.4.自己有用感が低い人の組織内での状態
- 4.メンバーの自己有用感を高める方法
- 4.1.フィードバックの強化
- 4.2.役割の明確化
- 4.3.成功体験の提供
- 4.4.学習と成長の機会を提供
- 4.5.エンパワーメント
- 5.自己有用感が下がる要因
- 6.従業員エンゲージメントと自己有用感の関連性
- 7.自己有用感 セルフチェックシート
- 8.まとめ
自己有用感とは?
自己有用感とは、個人が自分自身を組織や社会にとって価値のある存在だと感じる感覚のことを指します。これは、自分が果たしている役割やその成果に対して肯定的な自己評価を持つことを意味します。自己有用感は、職場や社会における自己の貢献を実感するための重要な心理的要素であり、従業員のモチベーションやパフォーマンスに直接影響を与えます。
自己有用感は、自己効力感(セルフエフィカシー)とも密接に関連していますが、両者は異なる概念です。自己効力感は、特定の行動やタスクを成功裏に遂行できるという信念を指すのに対し、自己有用感はその行動やタスクが他者に対して有益であるという感覚を指します。つまり、自己効力感が「できる」という信念であるのに対し、自己有用感は「役に立っている」という実感に焦点を当てています。
▼補足
自己有用感は、組織心理学やポジティブ心理学の領域で広く研究されています。特に、マーティン・セリグマン(Martin Seligman)やアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)による理論が、この概念を理解する上で重要です。セリグマンは「ポジティブ心理学」の創始者として知られ、自己有用感を含む個人の強みや幸福感に焦点を当てています。また、バンデューラの自己効力感(セルフエフィカシー)理論は、自己有用感の理解に欠かせない基礎を提供します。バンデューラは、個人が自身の行動や結果に対する影響力を感じることが重要であると提唱しています。
自己有用感の重要性
自己有用感は、職場でのパフォーマンス向上に寄与するだけでなく、個人の幸福感や心理的安定にも深く関わっています。自己有用感が高いと、個人は自分の存在が組織にとって不可欠であると感じ、仕事に対して積極的に取り組むことができます。一方で、自己有用感が低いと、個人は自分の役割に対して不安を感じ、仕事への意欲が低下する可能性があります。
▼補足
自己有用感は、個人のモチベーションやエンゲージメントに深く関わる重要な要素であり、デシとライアン(Deci & Ryan)の「自己決定理論(Self-Determination Theory)」でもその重要性が示されています。この理論では、人間は「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本的な心理的欲求を満たすことで、より高い動機づけと幸福感を得るとされています。自己有用感はこの「有能感」に直結し、個人が自分の役割を有意義だと感じることが、モチベーションやエンゲージメントの向上に寄与します。
自己有用感が高い人・低い人の違い
自己有用感が高い人
▽自信を持った行動
自己有用感が高い人は、自分の役割に対して強い自信を持っています。この自信は、日々の業務において積極的にアイデアを提案し、リーダーシップを発揮する行動に現れます。また、問題解決の場面でも冷静に対応し、自分のスキルや知識がチームに貢献できると信じています。
▽ポジティブな影響力
自己有用感が高い人は、周囲にもポジティブな影響を与えます。自分の行動が他者に良い影響を与えると確信しているため、同僚や部下のモチベーションを高め、チーム全体の生産性を向上させることができます。
▽成長志向
自己有用感が高い人は、自己成長に対しても非常に前向きです。自分のスキルや知識を常に向上させようとする意欲が強く、新しい挑戦を厭わない姿勢を持っています。これにより、組織内でのキャリアアップや専門性の深化が期待できます。
自己有用感が低い人
▽自信不足
自己有用感が低い人は、自分の役割や成果に対して不安を感じやすく、消極的な態度をとりがちです。自分が何をしても周囲にあまり影響を与えないと感じているため、アイデアを提案したり、リーダーシップを取ることに消極的です。
▽モチベーションの低下
自己有用感が低いことは、個人のモチベーション低下にもつながります。自分の努力が組織にとって有益でないと感じるため、仕事に対する意欲が失われ、結果としてパフォーマンスが低下します。
▽ネガティブな影響
さらに、自己有用感が低い人は、周囲にネガティブな影響を与えることがあります。自分が役に立たないと感じることが、他者とのコミュニケーションやチームワークにおいて消極的な姿勢を生み出し、組織全体の士気を低下させる可能性があります。
自己有用感が高い人の組織内での状態
自己有用感が高い人は、組織において中心的な存在となり、チームをリードする力を持っています。例えば、あるプロジェクトにおいて、自己有用感が高いメンバーがリーダーシップを発揮し、チームメンバーの意見を積極的に取り入れながら、最適な解決策を見つけ出します。
また、自己有用感が高い人は、組織の目標に対して強いコミットメントを持っており、困難な状況においても冷静に対応します。彼らは失敗を恐れず、新しい挑戦を厭わないため、革新や改善の推進役となることが多いです。こうした姿勢は、周囲にポジティブな影響を与え、チーム全体のパフォーマンス向上に寄与します。
自己有用感が低い人の組織内での状態
一方で、自己有用感が低い人は、組織内での存在感が薄く、消極的な姿勢が目立ちます。例えば、チームのミーティングで意見を求められたときに、自分の考えを表明することに躊躇し、ただ指示を待つだけの姿勢をとることが多いです。このような状況が続くと、その従業員の貢献度が低下し、組織内での評価も下がり負のスパイラルに陥り勝ちです。
さらに、自己有用感が低い人は、職場での人間関係にもネガティブな影響を与えることがあります。彼らは自分が価値のない存在だと感じるため、同僚とのコミュニケーションが希薄になり、チーム内での連携が不十分になることがあります。その結果、プロジェクトの進行が遅れたり、全体的な生産性が低下する可能性があります。
メンバーの自己有用感を高める方法
自己有用感を高めるためには、組織内での環境づくりや、リーダーシップの取り方が重要です。以下に具体的な方法をいくつか紹介します。
フィードバックの強化
フィードバックは、自己有用感を高めるための基本的な手法です。定期的かつ具体的なフィードバックを提供することで、従業員は自分の行動がどのように組織に貢献しているかを実感できます。ポジティブなフィードバックだけでなく、建設的なフィードバックも重要であり、それによって従業員は改善点を認識し、成長する機会を得られます。
役割の明確化
従業員が自分の役割を明確に理解し、それが組織全体にどのように貢献しているかを認識できる環境を整えることが大切です。役割が曖昧であると、従業員は自分の仕事が無意味であると感じる可能性があります。そのため、リーダーは各メンバーの役割や期待される成果を明確にし、達成感を得やすい目標設定を行うべきです。
成功体験の提供
小さな成功体験を積み重ねることは、自己有用感を高めるために非常に効果的です。成功体験は、従業員に自信を与え、次の挑戦に対する意欲を高めます。リーダーは、従業員に挑戦しやすいタスクを提供し、それが成功することで自己有用感を向上させるよう努めるべきです。
また、達成した成果をチーム全体で共有し、他のメンバーからの称賛を受けることで、自己有用感がさらに強化されます。
学習と成長の機会を提供
自己有用感を高めるためには、従業員が自分自身を成長させる機会を提供することが重要です。新しいスキルや知識を学ぶことで、従業員は自分がより有用な存在であると感じるようになります。組織として、研修やワークショップ、メンターシッププログラムなどを積極的に取り入れることで、従業員が自己成長を実感しやすい環境を提供しましょう。
エンパワーメント
従業員に対して権限を与えることも、自己有用感を高める有効な手段です。エンパワーメントにより、従業員は自分が重要な決定を行う権限を持っていると感じ、組織に対する貢献意識が高まります。信頼して業務を任せることで、従業員の自己有用感とモチベーションが向上し、より積極的に仕事に取り組む姿勢が促進されます。
自己有用感が下がる要因
自己有用感が低下する要因には、いくつかの共通点があります。これらを認識し、早めに対処することが重要です。
役割の不明確さ
従業員が自分の役割や責任について明確な理解を持っていない場合、自己有用感が低下しやすくなります。特に、大きな組織やプロジェクトにおいては、役割が曖昧になることが多く、それが自己有用感の低下につながります。
過度な失敗体験
連続的な失敗やフィードバックの欠如は、自己有用感を著しく低下させる要因となります。従業員が失敗を繰り返すと、自分は役に立たない存在だと感じるようになり、自己有用感が低下します。このため、失敗から学びを得られるような支援やフィードバックを提供することが重要です。
不適切な評価制度
従業員の努力や成果が正当に評価されない場合、自己有用感が損なわれることがあります。不公正な評価制度や偏ったフィードバックは、従業員のやる気を削ぎ、自己有用感を低下させる原因となります。評価制度の透明性や公正性を保つことが、従業員の自己有用感を維持するために重要です。
従業員エンゲージメントと自己有用感の関連性
従業員エンゲージメントとは、従業員が仕事に対して情熱を持ち、自分の仕事が組織にとって価値があると感じる状態を指します。従業員エンゲージメントの向上が組織の生産性向上において非常に重要であると、近年ますます注目されています。
その背景には、従業員エンゲージメントが高い組織が業績面で他の組織よりも優れていることを示す多くの研究や調査結果が存在するからです。
自己有用感と従業員エンゲージメントには密接な関連性がありガラップ社(Gallup)の調査が示唆しています。ガラップの研究によると、自己有用感が高い従業員は、仕事に対して情熱を持ち、組織に対する強いコミットメントを示すことが多いとされています。
この調査では、自己有用感と従業員エンゲージメントの高さが、組織の生産性や業績向上に直接的な相関関係があることが確認されています。一方、自己有用感が低い従業員は、自分の仕事に対する価値を感じられず、結果としてエンゲージメントが低下します。
エンゲージメントが低い従業員は、仕事に対する熱意が薄れ、生産性やパフォーマンスも低下する可能性があります。
従業員エンゲージメントを高めるためには、組織全体で自己有用感を高める施策を導入することが重要です。具体的には、前述のようなフィードバックの強化や役割の明確化、学習機会の提供などが効果的です。こうした取り組みにより、従業員は自分の仕事に誇りを持ち、組織に対する貢献意識が高まります。
自己有用感 セルフチェックシート
自己有用感をセルフチェックするためのシートを提供します。以下の質問に答えることで、自分の自己有用感を評価できます。
まとめ
VUCA時代において、人材こそが企業の最大の資産です。本記事では、従業員エンゲージメント向上の一つの鍵となる「自己有用感」に焦点を当て、その重要性と高め方について深掘りしました。自己有用感が高い従業員は、モチベーションが高く、組織への帰属意識も強くなります。一方で、自己有用感が低い従業員は、仕事への意欲が低下し、離職につながる可能性も高まります。組織は、フィードバックの強化、役割の明確化、成長機会の提供などを通じて、従業員の自己有用感を高めることで、従業員エンゲージメントを向上させ、組織全体の活性化を図ることができます。あなたの組織では、従業員一人ひとりの「自己有用感」を高める取り組みはどのように行われていますか? 本記事で紹介した施策を参考に、ぜひあなたの組織でも自己有用感を高めるための取り組みを始めてみてください。従業員の自己有用感が高まれば、組織全体の活性化につながり、より良い職場環境が実現できるはずです。
本記事が、その一助となれば幸いです。