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経営層・リーダーが知っておくべき組織力の源 『自己効力感』とは!?

現代のビジネス環境と人的資本の重要性

昨今のビジネス環境は、VUCA時代と呼ばれる激動の時代へと突入し、人材不足や採用難が深刻化しています。このような状況下において、企業の成功を左右する最も重要な要素は何か。それは、他ならぬ「人的資本」です。

企業が有する知的資産や経験、スキルといった人的資本は、企業の競争優位性を築き、イノベーションを創出する原動力となります。従来の物的資本や金融資本だけでなく、人的資本への投資が、企業の持続的な成長に不可欠であるという認識が、ますます高まっています。

従業員エンゲージメントと自己効力感

近年、従業員エンゲージメントという言葉を頻繁に耳にするようになりました。しかしながら、この言葉は、その定義が曖昧で、現場レベルでの理解が十分とは言えない状況です。従業員エンゲージメントを向上させるために、様々な施策が講じられていますが、その効果を最大限に引き出すためには、従業員一人ひとりが、自分自身の仕事に価値を見出し、貢献しているという実感を持つことが重要です。

そこで、本記事では、従業員エンゲージメントを高める上で重要な要素の一つである「自己効力感」に焦点を当てます。自己効力感とは、自分が特定の課題を遂行できるという信念のことです。自己効力感の高い従業員は、困難な状況にも積極的に立ち向かい、高いパフォーマンスを発揮する傾向があります。

本記事では、自己効力感を高めるための具体的な方法や、組織として自己効力感を醸成するための取り組みについて解説します。

目次[非表示]

  1. 1.自己効力感とは?
  2. 2.効力期待と結果期待
  3. 3.自己効力感が高い人・低い人の違い
    1. 3.1.▽自己効力感が高い人
    2. 3.2.▽自己効力感が低い人
  4. 4.自己効力感が高い人の組織内での状態
  5. 5.自己効力感が低い人の組織内での状態
  6. 6.自己効力感を高めるための具体的な方法~目標設定から振り返りまで~
    1. 6.1. 目標設定とスモールステップの設定
    2. 6.2.振り返りの後押しと支援
    3. 6.3.ポジティブフィードバック
  7. 7.自己効力感を高める効果
  8. 8.組織における実践
  9. 9.従業員エンゲージメントと自己効力感の関連性
  10. 10.自己効力感セルフチェックの10の質問
  11. 11.まとめ


自己効力感とは?

自己効力感(Self-Efficacy)は、特定の状況で目標を達成できるという自信のことです。心理学者アルバート・バンデューラは、この概念が個人の行動や人生に大きな影響を与えることを示しました。高い自己効力感を持つ人は、困難な課題にも積極的に取り組み、達成感を味わうことができるようになります。成功体験を積み重ねることで、さらに自己効力感を高め、幸福感をより強く感じられるようになります。

バンデューラの理論によると、高い自己効力感を持つ人は、困難な状況においても粘り強く努力を続け、失敗を成長の機会と捉える傾向があります。例えば、新しいソフトウェアを導入する際、高い自己効力感を持つ社員は、「自分ならできる」という信念のもと、積極的に学習に取り組みます。一方、自己効力感が低い社員は、「自分には無理だ」と感じ、学習を避けてしまったり、途中で諦めてしまう可能性が高いです。


効力期待と結果期待

自己効力感は、「効力期待」と「結果期待」という2つの要素から成り立っています。

効力期待: これは、「自分ならできる」という、特定の行動を成功させる自信のことです。効力期待が高い人は、目標達成に向けて積極的に行動し、困難な状況でもあきらめずに努力を続ける傾向があります。

結果期待: これは、「行動すれば良い結果が得られる」という信念のことです。例えば、努力すれば成績が上がる、新しいスキルを習得すればキャリアアップできるなど、行動の結果として得られる具体的な報酬や達成感を期待することです。

例: 営業担当者が新しいセールス手法を導入する場面を考えてみましょう。効力期待が高い担当者は、「自分はこの手法をうまく使いこなせる」と確信し、積極的に試してみます。また、結果期待が高い場合、「この手法を使えば売上が上がる」という信念を持ち、実際にその方法を用いて顧客にアプローチするでしょう。

自己効力感が高い人・低い人の違い

自己効力感が高い人と低い人には、以下のような特徴的な違いがあります。

▽自己効力感が高い人

・新しい挑戦や困難な課題に対して積極的に取り組み、失敗を恐れずに行動する。
・困難な状況でも自分の能力を信じ、目標達成のために努力を続ける。
・他者と協力しながら問題解決に取り組み、チームワークを大切にする。
・失敗を成長の機会と捉え、次の挑戦に活かす。
・明確な目標を設定し、計画的に行動する。
・ストレスに強く、困難な状況でも冷静さを保つ。

▽自己効力感が低い人

・新しいことに対して不安や恐れを感じ、挑戦を避ける傾向がある。
・リスクを過度に意識し、失敗を恐れて行動を起こせない。
・自分の能力を過小評価し、成功を期待できない。
・他者に頼りがちで、一人で問題解決に取り組むことを避ける。
・失敗を恐れて、新しいことを学ぶのをためらう。
・曖昧な目標しか設定できず、行動に移せない。
・ストレスに弱く、困難な状況でパニックになりがち。

例えば、チーム内で新しいプロジェクトを立ち上げる際、自己効力感が高いメンバーは、「自分ならこのプロジェクトを成功させられる」という確信を持ち、積極的にアイデアを出し、他のメンバーを巻き込みながらプロジェクトを進めていきます。一方、自己効力感が低いメンバーは、「自分には無理だ」と感じ、リーダーシップを取ることを避け、指示を待つ傾向があります。

自己効力感が高い人の組織内での状態

自己効力感が高い人は、組織内で多様な役割を担い、ポジティブな影響を与える存在です。彼らはリーダーシップを発揮し、チーム全体のパフォーマンスを向上させるだけでなく、チームプレーヤーとして他のメンバーをサポートしたり、イノベーターとして新しいアイデアを提案したりすることも得意です。困難な状況に直面しても、自分の能力を信じ、問題解決に向けて積極的に行動します。

例えば、プロジェクトリーダーとして、チームの強みを最大限に引き出し、目標達成のためにリソースを効果的に配分します。また、チームメンバーに対して適切なフィードバックを行い、彼らの成長をサポートすることで、組織全体のモチベーションを高め、結果的に業績向上につながります。

自己効力感が低い人の組織内での状態

自己効力感が低い人は、組織内でのパフォーマンスが低下しやすく、ネガティブな影響を及ぼすことがあります。彼らは自分の能力に対する信頼が低く、「失敗したらどうしよう」といった不安を抱きがちです。そのため、新しいタスクや挑戦に対して消極的になりがちで、業務の効率や質が低下することがあります。また、自分の意見を言いにくいため、チームでの議論に積極的に参加できず、チーム全体の活性化を妨げることもあります。

このような状況では、リーダーや同僚が積極的に声かけを行い、小さな成功体験を積み重ねる機会を提供することで、彼らの自己効力感を少しずつ高めていくことが重要です。また、目標を具体的に設定し、達成可能な小さなステップを踏むことで、達成感を感じてもらうことも効果的です。

自己効力感を高めるための具体的な方法~目標設定から振り返りまで~

組織において、メンバーの自己効力感を高めることは、個人の成長を促進するだけでなく、組織全体の活性化や業績向上にも直結します。以下では、自己効力感を高めるための具体的な方法について、目標設定から振り返りまでのプロセスを詳しく説明します。

 目標設定とスモールステップの設定

▽明確な目標設定
目標設定は、自己効力感を高めるための最初のステップです。目標は明確で具体的であるほど、自分が達成可能だと感じやすくなります。そのため、SMART目標設定(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性がある、Time-bound:期限がある)のフレームワークを活用することが推奨されます。例えば、「来月までに新規顧客を5名獲得する」という目標は、「営業成績を上げる」という漠然とした目標よりも達成可能性が高く、自己効力感を育む土台となります。

▽スモールステップの設定
大きな目標を設定した後、それを達成するためのスモールステップ(小さな目標やアクション)を設定することが重要です。スモールステップは、目標達成へのプロセスを具体的かつ段階的に示すもので、各ステップをクリアするごとに小さな成功体験を得ることができます。これが積み重なることで、達成感や自信が醸成され、最終的な目標達成に対する自己効力感が強化されます。例えば、新規顧客を5名獲得する目標に対しては、まず「今週中に10件の見込み客をリストアップする」「次週にその見込み客に電話でアプローチする」といったステップを設定することが考えられます。

振り返りの後押しと支援

▽定期的な振り返り
目標設定と実行に続いて、定期的な振り返りを行うことが自己効力感の維持と向上に欠かせません。振り返りのタイミングとしては、週単位や月単位など、適切なサイクルを設定します。この振り返りの場では、進捗状況を確認し、何がうまくいったのか、またどこに改善の余地があるのかを客観的に評価します。これにより、次のステップに向けてのアクションプランを修正・強化することができます。

▽振り返りの支援
振り返りは、個人だけで行うのではなく、上司や同僚からのサポートを得ることで効果が高まります。例えば、定期的にフィードバックセッションを設け、進捗や課題について話し合うことで、個々の成長を促進できます。この際、上司や同僚がポジティブな姿勢で支援を行うことが重要です。彼らが建設的なフィードバックやアドバイスを提供することで、メンバーは自分の努力が評価されていると感じ、自己効力感がさらに高まります。

ポジティブフィードバック

振り返りの際には、具体的な行動や成果に対するポジティブフィードバックを忘れずに行います。ポジティブフィードバックは、成功したポイントや成長した部分を具体的に指摘し、称賛することで、受け手の自信を高める効果があります。例えば、「あなたが顧客のニーズを正確に把握し、それに基づいて提案を行った結果、契約に至りました」というフィードバックは、その行動が成功要因であったことを強調し、次のアクションへの意欲を高めます。

自己効力感を高める効果

▽モチベーションの向上
自己効力感が高まることで、目標達成に向けたモチベーションが向上します。自分がやればできるという確信を持つことで、難しい課題にも前向きに取り組む姿勢が生まれます。例えば、新しいスキルを習得する必要がある場合でも、そのスキルを習得できると信じて努力することができます。

▽自信の獲得
スモールステップの達成やポジティブなフィードバックを受けることで、自己効力感が強化され、自信がつきます。この自信が、新たな挑戦への意欲を生み出し、自己成長を加速させます。例えば、初めてのプロジェクトリーダーとして成功を収めた経験が、自信をもって次のプロジェクトに挑む原動力となります。

▽パフォーマンスの向上
自己効力感が高いと、パフォーマンスも向上します。自分が成功することを信じて行動することで、効率的にタスクをこなし、より高い成果を出すことができます。これにより、個人だけでなく、チームや組織全体の成果が向上します。

▽成長意欲の促進
自己効力感が高まると、自分の成長を実感し、新しい知識やスキルを積極的に習得しようとする意欲が向上します。これは、自己啓発や学習への意欲を高め、長期的なキャリアの成長にもつながります。自己効力感の高いメンバーは、自ら進んで学び、成長することで、組織に新しい価値をもたらすことができます。

組織における実践

▽目標設定支援ツール
組織全体で自己効力感を高めるためには、目標設定や進捗管理を支援するツールの導入が効果的です。これにより、メンバーは目標達成に向けてより効果的に取り組むことができ、自己効力感を高める機会が増えます。例えば、進捗状況をリアルタイムで確認できるプロジェクト管理ツールや、目標達成度を可視化するダッシュボードなどが挙げられます。

▽定期的な面談
上司とメンバーが定期的に面談を行い、目標達成状況や課題を共有することも、自己効力感の向上に寄与します。この面談では、目標に対する進捗や障害、次のステップについて話し合い、具体的なアクションプランを設定することで、メンバーが自信を持って次の課題に取り組むことができます。

▽ピアレビューの導入
組織内でのピアレビュー(同僚間の評価)は、自己効力感を多角的に強化する手段です。同僚同士で互いの成果や取り組みを評価し合うことで、多様な視点から自分の強みや改善点を認識でき、それが自己効力感の向上につながります。また、同僚からのフィードバックは、組織全体の連帯感を高め、相互の成長を促進します。

▽学習機会の提供
組織はメンバーの成長を支援するために、研修やセミナーといった学習機会を提供することが重要です。これにより、メンバーは新たな知識やスキルを習得し、自己効力感を高めることができます。さらに、学習機会を通じて得た成功体験が、さらなる成長意欲を喚起し、長期的なキャリア形成にも寄与します。

従業員エンゲージメントと自己効力感の関連性

従業員エンゲージメント(Employee Engagement)とは、従業員が自分の仕事や組織に対して持つ熱意やコミットメントの度合いを指します。エンゲージメントが高い従業員は、仕事に対して情熱を持ち、自発的に努力を惜しまず、組織の成功に貢献しようとします。

自己効力感と従業員エンゲージメントの関連性は非常に強く、自己効力感が高い従業員は、エンゲージメントも高い傾向にあります。自己効力感が高いことで、従業員は自分の役割やタスクに対して自信を持ち、成果を上げるための積極的なアプローチを取ります。これにより、彼らは仕事に対してより高い満足感を得ることができ、結果的に組織全体のパフォーマンスが向上します。

逆に、自己効力感が低い従業員は、仕事に対して消極的になりがちで、組織に対するコミットメントも低くなります。これが長期的に続くと、エンゲージメントの低下や離職率の増加、さらには生産性の低下を招く可能性があります。

自己効力感セルフチェックの10の質問

自己効力感を高めるためには、まず自分自身の現状を把握することが重要です。以下のセルフチェックを行うことで、自分の自己効力感を評価し、必要な改善点を見つけることができます。


1.新しい挑戦に前向きに取り組むことができるか?
 新しいタスクやプロジェクトに対して自発的に行動を起こす姿勢があるかどうかを確認します。

2.困難な状況でも、自分の力で解決できると信じているか?
 予期しない問題や障害に直面したとき、自分の能力を信じて行動できるかを評価します。

3.他者からのフィードバックを受け入れ、自分の成長に繋げているか?
 フィードバックを前向きに捉え、自己改善に活かせるかどうかをチェックします。

4.目標に向かって計画的に行動できているか?
 目標達成に向けて、戦略的かつ計画的に行動しているかを評価します。

5.ミスを恐れずに、積極的に行動できているか?
 失敗を恐れず、新しいことに挑戦できるかどうかを確認します。

6.過去の成功体験を自信につなげているか?
 これまでの成功経験を基に、自信を持って次のタスクに取り組んでいるかを評価します。

7.周囲のサポートを適切に活用できているか?
 同僚や上司のサポートを上手に活用しているかを確認します。

8.自分のスキルや知識を高める努力をしているか?
 継続的な学習やスキルアップのための努力を行っているかを評価します。

9.自分の役割に対して責任感を持っているか?
 自分の業務や役割に対して責任を持ち、その達成に向けて努力しているかを確認します。

10.結果が思わしくなくても、次に繋げる努力をしているか?
 失敗した場合でも、その経験を次に活かすための学びを得ているかを評価します。

まとめ

現代のビジネス環境において、従業員の自己効力感は、組織の成功を左右する重要な要素です。自己効力感が高い従業員は、困難な状況にも積極的に立ち向かい、高いパフォーマンスを発揮します。本記事では、自己効力感の概念、その重要性、そして具体的な高め方について解説しました。

自己効力感を高めるためには、
・明確な目標設定: SMARTな目標を設定し、小さな成功体験を積み重ねる
・ポジティブフィードバック: 成果を認め、励ます
・成長機会の提供: 学習やスキルアップの機会を提供する
・組織全体のサポート: 上司や同僚が協力し、目標達成を支援する
・定期的な振り返り: 進捗状況を確認し、改善点を見つける
などが有効です。

これらの取り組みを通じて、従業員の自己効力感を高めることで、
・モチベーション向上
・パフォーマンス向上
・離職率の低下
・イノベーションの促進
・組織全体のエンゲージメント向上
といった効果が期待できます。

本記事が、読者の皆様の従業員エンゲージメント向上と組織生産性向上の一助となれば幸いです。

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