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若手社員の定着・活躍を促進する ジョブ・クラフティングの3つのステップ

はじめに

多様化する働き方、そして変化の激しい現代社会において、従業員のモチベーション維持は企業にとって喫緊の課題となっています。特に、Z世代と呼ばれる若年層は、従来の働き方とは異なる価値観を持ち、仕事に求めるものが多様化しています。
彼らは、単に指示された仕事をこなすだけでなく、仕事を通じて自己成長を遂げ、社会に貢献したいという強い欲求を持っています。こうした背景から、「ジョブ・クラフティング」という概念が注目されています。


例えば、事務職の従業員がデータ入力業務を担当しているとしましょう。通常は、与えられたデータを正確に入力するだけが求められますが、この従業員は自らの業務に付加価値を加えようと考えました。具体的には、データ入力の際にエラーや入力ミスが発生しやすい箇所を特定し、それを上司に報告するとともに、ミスを減らすための入力チェックシートを自作したのです。この工夫により、業務の効率が向上しただけでなく、会社全体のデータ品質も改善されました。また、この従業員は他部署とも積極的にコミュニケーションを取り、同僚と情報共有をすることで、全体の作業効率向上に貢献しました。
このように、従業員が自らの役割を再定義することが、ジョブ・クラフティングの重要な要素です。


ジョブ・クラフティングは、従業員が自ら仕事の内容ややり方をデザインし、主体性を高めることで、モチベーションや生産性を向上させる手法です。本記事では、なぜジョブ・クラフティングが特にZ世代の多い現代において重要なのか、そしてどのように実践していくべきかについて解説していきます。

目次[非表示]

  1. 1.はじめに
  2. 2.ジョブ・クラフティングとは?
    1. 2.1.ジョブ・クラフティングの基本概念
      1. 2.1.1.タスク(業務)・クラフティング
      2. 2.1.2.リレーショナル(関係性)クラフティング
      3. 2.1.3.コグニティブ(認知)クラフティング
    2. 2.2.Z世代にジョブ・クラフティングが重要視される理由
  3. 3.ジョブ・クラフティングの効果
    1. 3.1.従業員エンゲージメントへの効果
    2. 3.2.モチベーションと生産性の向上
  4. 4.ジョブ・クラフティングの具体的な導入ステップ
  5. 5.まとめ

ジョブ・クラフティングとは?

ジョブ・クラフティングの基本概念

ジョブ・クラフティングには主に三つの側面があります。

タスク(業務)・クラフティング

担当している業務内容を見直し、改善や変更を加えることで、自分の強みや興味に合った形に業務を再設計することです。

・タスクの追加または削減
興味のあるタスクを増やしたり、逆に苦手なタスクを減らす。
・タスクの方法を変更
同じタスクを異なる手法で実行し、効率を上げたり、楽しさを見つける。
・タスクの順序を変更
作業の順序を変えることで、仕事の流れを改善する。

(例)
先述した事務職の従業員が、単なるデータ入力からエラー削減のための工夫を自ら行い、チェックシートを作成するなど、業務の効率向上に貢献した例が典型的なタスク・クラフティングです。このように、自分の業務に付加価値を加え、結果的に会社全体のパフォーマンス向上に寄与することができます。

リレーショナル(関係性)クラフティング

リレーショナルクラフティングは、仕事において関わる人々との関係性を積極的に見直し、改善するプロセスです。

・新しい人間関係の構築
新たな同僚や部門と関わりを持ち、ネットワークを広げる。
・既存の関係を深める
既存の同僚との関係を強化し、協力関係を築く。
・関係の調整
ストレスを感じる人間関係を減らし、ポジティブな関係を増やす。

(例)
事務職の従業員が他部署とのコミュニケーションを強化し、情報共有を促進することで、全体の作業効率を高めるなど、部門間の関係性を積極的に改善することで、組織全体のパフォーマンス向上につながります。

コグニティブ(認知)クラフティング

コグニティブクラフティングは、自分の業務の目的や意義を見直し、新たな視点で仕事に取り組むことを指します。

・仕事の意義を見直す
自分の仕事がどのように他人や組織に貢献しているかを再認識する。
・自己の役割の再定義
自分の役割をより広い視野で捉え、意味を見出す。
・ポジティブな側面に注目
仕事のポジティブな側面に焦点を当て、満足感を高める。

(例)
単なるデータ入力の業務が、実際には会社全体のデータ品質向上に不可欠な役割であると再認識することで、業務への意義を見出し、モチベーションが高まるといった効果があります。


Z世代にジョブ・クラフティングが重要視される理由

Z世代は、これまでの世代とは異なる価値観や働き方を持っており、その中でも特に「自己実現」と「意義」を求める傾向が強いとされています。この世代は、ただ指示に従って仕事をこなすのではなく、自らの働き方や仕事の内容を主体的にデザインすることに強い興味を抱いています。これこそが、ジョブ・クラフティングがZ世代にとって特に重要な理由です。

自己成長とキャリアの自由度を求めるZ世代
Z世代は、仕事を通じた自己成長やキャリアの自由度を重視します。彼らは、与えられた枠に収まるのではなく、自分らしい働き方を追求し、業務をアレンジすることでモチベーションを高めます。ジョブ・クラフティングを通じて、彼らは自らの強みを活かし、充実感を持ちながら働くことができるのです。

意義のある仕事へのこだわり
Z世代は、仕事における「意義」を非常に重視しています。単なる業務の遂行ではなく、その業務がどのように組織や社会に貢献しているのかを深く考えます。コグニティブクラフティングにより、自らの業務がどのように社会に影響を与えているかを再定義し、仕事への意義を再確認することで、彼らの満足感ややりがいが高まります。

キャリアの柔軟性と自律性の重視
Z世代はキャリアの柔軟性や自律性を重んじます。ジョブ・クラフティングにより、自らの業務をコントロールし、関係性を構築することで、柔軟で自由な働き方を実現できます。これにより、彼らはキャリアの選択肢が広がり、組織内で長期的に成長できる可能性が高まります。
Z世代の特性に合わせたジョブ・クラフティングは、エンゲージメントやモチベーションを高めるための効果的なアプローチです。柔軟で主体的な働き方を提供することで、組織全体のパフォーマンス向上にもつながるでしょう。


ジョブ・クラフティングの効果

従業員エンゲージメントへの効果

ジョブ・クラフティングは従業員のエンゲージメントを高めるために有効な手法です。研究によれば、従業員が自主的に仕事を設計し直すことで、自らの業務に対する関与や満足度が向上し、仕事のパフォーマンスも高まることが確認されています。たとえば、ポルトガルの調査(Alves et al., 2020、"Job Crafting and Work Engagement: A Study in Portugal")では、仕事の構造的資源や社会的資源を増やすことで、従業員のエンゲージメントが高まり、それが結果的に業務成績の向上につながることが示されています​(MDPI, 2020)。


さらに、UAEにおける研究(Ali & Al Rasheedi, 2021、"The Role of Job Crafting in Enhancing Employee Wellbeing in the UAE")でも、ジョブ・クラフティングが組織内の幸福感を高め、それが従業員エンゲージメントを向上させる重要な要因であるとされています。幸福感の向上が従業員の積極的な行動を促進し、組織全体の成果に良い影響を与えることが確認されています​(Emerald, 2021)。

モチベーションと生産性の向上

モチベーションが高い従業員は、創造的な問題解決に取り組み、生産性を向上させる傾向があります。中国の製造業における調査(Zhou et al., 2019、"The Impact of Job Crafting on Employee Motivation and Productivity in Manufacturing Firms in China")では、HRシステムが強力な環境では、従業員がジョブ・クラフティングに積極的に取り組む傾向があり、それがモチベーションと生産性の向上に直接結びつくことが示されています​(Emerald, 2019)。

また、これにより、従業員が自分の強みを活かしながら業務を進められるため、彼らのモチベーションが向上し、結果として会社全体の業績にも貢献します。

ジョブ・クラフティングの具体的な導入ステップ

ジョブ・クラフティングを導入する際には、以下の3つの具体的なステップが有効です。マネージャーがすぐに実践でき、チームのパフォーマンスを向上させることが可能です。


1.仕事の指示を工夫し、全体像と目的を的確に伝える
仕事を指示する際に、ただタスクを伝えるだけではなく、その仕事がどのように会社全体の戦略や目標に貢献するかを説明することが重要です。たとえば、あるデータ入力業務が単なるルーティン作業に見えるかもしれませんが、それが会社のデータ品質向上にどのように影響を与えるかを具体的に示すことで、従業員が業務の価値を感じやすくなります。複数の研究によれば、業務の目的を正確に伝えることで、従業員の意欲が高まり、エンゲージメントが向上します。Wilmar Schaufeli(2002)の研究「Work Engagement and Job Crafting: A Theoretical Approach」や、Emerald(2021)による調査でも、業務の目的を明確に伝えることで従業員のエンゲージメントが高まることが示されています​。


2.フィードバックの質と量を増やす
定期的なフィードバックは、従業員がジョブ・クラフティングを成功させるために不可欠です。1on1ミーティングなどを通じて、従業員の取り組みや工夫、業務プロセスに対して具体的なフィードバックを提供し、その改善点や成功例を認めることで、モチベーションをさらに高めることができます。Emerald(2019)の研究「The Impact of Feedback on Job Crafting and Work Motivation」では、フィードバックの量と質を向上させることで、従業員が自発的に業務を改善する意欲が向上し、チーム全体のパフォーマンスにもプラスの影響を与えることが確認されています​。
 

3.チーム内の心理的安全性を高める
ジョブ・クラフティングを促進するためには、従業員が自由に意見やアイデアを共有できる環境を作ることが重要です。心理的安全性の高いチームでは、従業員は失敗を恐れずに新しい方法を試みたり、業務改善の提案を行うことができます。Wilmar Schaufeli(2017)による研究「Psychological Safety and Its Role in Job Crafting」や、Emerald(2020)の研究「Creating Safe Spaces: Psychological Safety's Impact on Job Crafting and Employee Performance」でも、心理的安全性が高い職場環境が従業員のジョブ・クラフティング行動を促進し、結果的に生産性の向上につながることが示されています​。


まとめ

このブログ記事では、ジョブ・クラフティングが従業員エンゲージメント、モチベーション、生産性向上にどれほど効果的な手法であるかについて詳細に解説しました。
ジョブ・クラフティングとは、従業員が自身の業務を主体的に再定義し、柔軟に変化させるプロセスです。これにより、従業員は仕事に対する責任感や達成感を高め、組織への貢献度も向上します。具体的には、タスク・クラフティング(業務内容の改善)、リレーショナルクラフティング(関係性の構築)、コグニティブクラフティング(仕事の意味・意義の見直し)の3つの側面から、自身の仕事をより良いものへと変化させていきます。


様々な研究からも、ジョブ・クラフティングが従業員のエンゲージメントを高め、モチベーションと生産性を向上させることが実証されています。
 
ジョブ・クラフティングは、単なる理論ではなく、今すぐ実践できる具体的な手法です。


上司やマネージャーの方へ
 部下の仕事に対する意欲を高め、組織全体の成果を向上させたいとお考えなら、ジョブ・クラフティングを導入することは有効な手段です。部下へのフィードバックの質と量を増やし、心理的安全性を高めることで、部下たちがより積極的に仕事に取り組める環境を作りましょう。


チームメンバーの方へ
ジョブ・クラフティングの考え方を参考に、自身の業務を見直してみましょう。小さな工夫から始めて、徐々に自分の仕事に変化を加えていくことで、仕事に対する満足度や日々の生産性が大きく変化することに気づくことができるでしょう。

ジョブ・クラフティングは、従業員一人ひとりが主体的に働き、組織全体を活性化させるための強力な思考法であり、若いうちから身に着けておきたいセルフマネジメントの必須スキルです。


本記事が、読者の皆様のジョブ・クラフティングに関する理解を深め、仕事や生活の質の向上に繋がれば幸いです。

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