若手社員の定着率向上、活躍を促進するフォロー研修設計のポイント
Z世代の若手社員の心を掴み、組織に定着させるには?
多様化する価値観を持つZ世代若手社員の採用は、企業にとって大きなチャンスです。しかし、同時に、彼らを組織に定着させるためには、従来とは異なるアプローチが必要となります。
本記事では、Z世代が仕事に求めるもの、そして彼らを育成する上で効果的なキャリア教育とセルフアウェアネス研修についてご紹介します。これらの施策を通じて、若手社員の成長を促し、組織の活性化に繋げることができます。
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若手社員の離職問題とZ世代の特徴
日本の労働市場において、特に若手社員、特にZ世代(1997年以降に生まれた世代)の離職率が高いことが、企業にとって大きな課題となっています。厚生労働省の調査によると、新卒社員の約30%が3年以内に離職するという現実が明らかになっています【厚生労働省, 2023】。
さらに、今後は少子化の影響で採用がより難しくなることが予測されており、企業が持続的に成長するためには、若手社員をいかに定着させ、成長させるかが重要な戦略となります。特に、Z世代は自己成長や仕事の意義を重視する特徴があるため、これらに対応する適切なサポートが必要です【Twenge, J.M., 2017, iGen】。
本記事では、Z世代を対象に、彼らの定着率を高めるために重要な「キャリア教育」と「セルフアウェアネス研修」の効果、そして企業が取るべき具体的なアプローチについて解説します。
キャリア教育とセルフアウェアネス向上を狙うフォロー研修の効果
キャリア教育の重要性
キャリア教育は、社員が自らのキャリアを計画し、将来に向けた明確な目標を持つために必要なスキルや知識を提供するプロセスです。このプロセスを経ることで、若手社員は長期的な視点を持ち、組織での役割に意欲的に取り組むことができます。特にZ世代は、自身のキャリアビジョンを持ち、自分の成長を実感することを求める傾向が強いことが、様々な研究でも示されています【Smith, M. & Snell, A., 2021, Career Development International】。
また、WILL(自分が何をしたいか)、CAN(自分が何をできるか)、MUST(組織や社会が求める役割)を言語化することは、キャリア教育における重要なステップです。これにより、社員は自分のキャリア目標を明確にし、主体的にキャリアをデザインできるようになります。
キャリア教育が不足すると、社員はキャリアに迷い、短期的な視点でのみ行動するようになり、長期的な成長機会を逃す可能性があります。このため、特に採用難が予想される未来において、企業が若手社員に対して適切なキャリア教育を提供することは、離職を防ぐ上で極めて重要です。
セルフアウェアネスの役割
セルフアウェアネス(自己認識)は、社員が自分自身の強み、弱み、価値観、そして行動パターンを深く理解する力です。セルフアウェアネスを高めることで、共感力や受容力が向上し、ビジネスにおける信頼関係の構築が促進されます。これは、Z世代が求める信頼と透明性の高いコミュニケーションを実現するための鍵となります【Wade, J., 2019, Journal of Organizational Behavior】。
自己認識を高める研修では、社員が自己のWILL・CAN・MUSTを明確に言語化し、キャリアの道筋を立てるスキルを養うことが可能です。このプロセスを経ることで、社員はより深い自己理解を持ち、仕事に対するモチベーションが向上します。Harvard Business Reviewによる研究では、自己認識が高い社員は生産性が高く、離職率も低いことが示されています【Goleman, D., 2020】。
Z世代社員のエンゲージメントを測る5つの要素
Z世代の社員は、仕事を単なる生活の糧としてではなく、自己実現の場と捉える傾向があります。そのため、企業が彼らのエンゲージメントを高めるためには、以下の5つの要素を特に重視する必要があります。
- 仕事の意味・意義
Z世代は、仕事に対する意味や意義を強く求める世代です。自分の仕事がどのように組織全体に貢献しているかを理解できると、モチベーションが高まり、長期的なコミットメントが生まれます。逆に、仕事が意味のないものだと感じた場合、離職意欲が高まる傾向があります【Gallup, 2022, State of the Global Workplace】。 -
成長実感(自己効力感)
Z世代は、自分が成長していると感じられない環境には長く留まりません。自己効力感は、個々が自身の能力を信じ、成長を実感できるかどうかを指します。Banduraの自己効力感理論に基づけば、社員が自己効力感を高めることができれば、より高い成果を上げ、挑戦を続けることができます【Bandura, A., 1997, Self-Efficacy: The Exercise of Control】。 -
貢献実感(自己有用感)
自己有用感(貢献実感)は、社員が自分の行動が組織やチームに対して価値を生んでいると感じることです。これは、社員のモチベーションやエンゲージメントに大きな影響を与えます。自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)によると、自己有用感は人間が内発的動機を持つために必要な有能感(Competence)と密接に関連しており、自分の行動が有効であると感じることで、より高いパフォーマンスを引き出すことができます【Deci, E.L., & Ryan, R.M., 2000, Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being】。
さらに、Gallupのエンゲージメント調査でも、自分が組織に価値をもたらしていると感じることが、社員のエンゲージメントを高め、離職を防ぐ要因であることが示されています【Gallup, 2022, State of the Global Workplace】。 - 心理的安全性
心理的安全性は、社員が失敗を恐れず、自由に意見を出し合える環境のことを指します。Z世代は、オープンなコミュニケーションと失敗に対して寛容な文化を求めており、この安全性が確保されていない場合、成長意欲を失うことが多いです【Edmondson, A., 2019, The Fearless Organization】。 - キャリアの安全性
キャリアの安全性は、社員が将来的に自分のキャリアが安定していると感じられるかどうかに関連します。Z世代は、自分のキャリアの方向性が明確で、成長の機会が与えられていると感じられない場合、離職を考えることが多いです。Hall(2004)のプロテアンキャリア理論(Protean Career Theory)によると、社員が自身のキャリアを自律的に管理し、キャリアの安全性を感じられる環境を提供することで、長期的な職業満足度と組織に対するエンゲージメントが向上することが示されています【Hall, D.T., 2004, The protean career: A quarter-century journey】。
また、De VosとSoens(2008)の研究でも、キャリアの安全性を確保することで、社員は自信を持ち、組織へのコミットメントが強化されることが示されています【De Vos, A. & Soens, N., 2008, Protean attitude and career success: The mediating role of self-management】。
モニタリングとアウトプット設計
研修の現状認識とアウトプット
フォロー研修を通じて、仕事の意味・意義、成長実感(自己効力感)、貢献実感(自己有用感)、心理的安全性、そしてキャリアの安全性という5つの要素をモニタリングすることが可能です。このモニタリングを行うことで、企業は現状のフォロー対象者をより正確に見極めることができます。
たとえば、これらの要素を定期的に測定することで、成長実感や貢献実感が低い社員を早期に発見し、離職リスクを抱えている社員に対して迅速にサポートを提供することが可能となります。
また、これらの5つの要素を長期間にわたりモニタリングし、データを蓄積することによって、若手社員が陥りやすいリスク要因を経年的に把握できるようになります。たとえば、キャリアの初期段階で特に心理的安全性の低下が原因で成長が阻害されるケースや、成長実感を持てないことがモチベーション低下に繋がるといった傾向を、蓄積されたデータから導き出すことができます。
これにより、企業は個々の社員に対するフォローアップのみならず、将来的な若手社員に対する包括的な施策の精度も高めることができます。
モニタリングの継続がもたらす成果
経年でのデータ蓄積により、若手社員の成長過程におけるリスク要因を具体的に把握し、問題が生じやすいタイミングや要素を特定できます。たとえば、入社2年目に成長実感が大きく低下するケースや、心理的安全性が一定の環境で低下しやすいなどのパターンを検知することで、事前に予防策を講じることが可能です。このようなデータに基づいたフォローアップ体制は、企業全体の人材マネジメントにおいて戦略的な利点となり、若手社員の離職防止やエンゲージメント向上に貢献します。
さらに、こうしたモニタリングデータを基にしたフィードバックは、次世代の若手社員の育成やエンゲージメント向上施策の精度を高めるだけでなく、経営層に対しても信頼性の高いデータに基づいた報告を行うことができ、企業全体の施策計画にも寄与します。これにより、若手社員が長期的に成長し、組織に貢献し続けるための持続可能なサポート体制を構築できるのです。
離職防止と活躍促進への具体的アプローチ
コミュニケーションの場の重要性
若手社員の離職防止と活躍促進には、仕事の意味・意義、成長実感、貢献実感、心理的安全性、キャリアの安全性の5つの要素を理解し、適切にサポートできる先輩や上司とのコミュニケーションの場が不可欠です。これらの要素を意識したフィードバックやキャリア相談が定期的に行われることで、若手社員は成長を実感しながら、自分のキャリアを積極的に築いていくことができます。
一方で、この5つの要素を理解せず、知識不足や誤ったスタンスで育成を行うと、逆効果になることがあります。
育成にあたる人材の適切な教育の重要性
若手社員の育成には、適切な知識とスタンスを持った人材があたることが必要です。育成を担当する上司や先輩が、5つの要素を理解していない、あるいは育成についてのスキルを持たない場合、その指導は逆効果となることが多いです。たとえば、成長実感がないままにプレッシャーをかけると、モチベーションが低下するどころか、離職に直結してしまうリスクが高まります。これは、企業にとって避けるべき最悪のシナリオです。
例えば、結果を過度に重視するアプローチでは、心理的安全性や成長実感を損ない、離職リスクを高めてしまう可能性があります。このため、育成にあたる上司や先輩の理解とスキルが、若手社員の定着に大きな影響を与えることを認識する必要があります。
そのため、育成にあたる人材の教育も非常に重要です。5つの要素を理解し、適切な育成アプローチを取れるようにするためのトレーニングを導入することは、企業の組織力を強化するための一つの手段です。育成担当者が適切な知識と姿勢を身につけることで、若手社員に対して建設的でポジティブなサポートが提供でき、結果として定着率の向上と活躍促進に繋がります。
継続的なフォローアップの重要性
育成には、研修終了後の継続的なフォローアップが欠かせません。定期的なキャリア相談や1対1のフィードバックの場を設けることで、若手社員は自分の成長を確認し、キャリアの次のステップを具体的に計画することができます。
特に、これらのフォローアップの場を通じて、社員の成長実感や貢献実感の不足、心理的安全性の低下といった問題を早期に発見し、適切な対応を講じることが可能です。こうした継続的なサポートにより、若手社員は安心してキャリアを形成し、組織内での自分の役割を理解していくことができ、結果として定着率向上と活躍促進に繋がります。
まとめ
本記事では、若手社員、特にZ世代の定着率向上に向けて、キャリア教育とセルフアウェアネス向上の要素を取り入れたフォロー研修の重要性を解説しました。これらの研修を通じて、若手社員は自身のキャリアビジョンを明確化し、自己理解を深めることができます。
具体的には、Z世代が仕事に求める「仕事の意味・意義」「成長実感」「貢献実感」「心理的安全性」「キャリアの安全性」という5つの要素を満たすことで、エンゲージメントを高め、定着率向上に繋げることが重要です。
また、これらの要素を継続的にモニタリングし、データに基づいたフィードバックを行うことで、より効果的な育成が可能になります。さらに、育成にあたる人材の教育も重要であり、適切な知識とスキルを持った人材が育成に当たることで、若手社員の成長をサポートすることができます。
若手社員の定着率向上は、企業の持続的な成長にとって不可欠です。特に、少子化が進み、採用が難しくなる中で、既存の社員をいかに長く働かせ、活躍させるかが重要な課題となっています。
本記事で紹介したキャリア教育とセルフアウェアネス向上の要素を取り入れたフォロー研修は、若手社員の定着率向上だけでなく、企業全体の生産性向上にも繋がります。これらの取り組みを始めることで、貴社の組織はより活気あふれるものとなり、イノベーションを創出する力も高まるでしょう。
若手社員の定着率向上は、一朝一夕にできるものではありません。継続的な取り組みと、組織全体の意識改革が求められます。
本記事が、貴社の若手社員育成の一助となれば幸いです。