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離職を防ぎ、生産性を高める!組織変革を成功させる3つの鍵と、具体的なアクションプラン

VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)の時代において、企業はこれまで以上に柔軟で迅速な対応が求められています。このような不確実性が高い環境下で、企業の持続的な成長を支えるためには、人的資本経営の重要性がますます高まっています。つまり、従業員一人ひとりを貴重な資本と捉え、彼らの能力を最大限に引き出すことが、競争優位性を維持するための鍵となります。

しかし、急速な技術革新や市場の変化により、従来の管理手法では、社員のモチベーションやエンゲージメントの低下が問題となっています。特に、指示命令型のマネジメントでは、社員の自律性や創造性が抑制され、結果として組織全体のパフォーマンスが低下するリスクが高まります。
そこで重要なのが、社員のセルフアウェアネス(自己認識)を高め、心理的安全性を築き、さらに効果的なノンテクニカルスキルを組織全体に浸透させることです。これにより、従業員エンゲージメントを向上させ、社員が主体的に組織の目標達成に貢献する文化を醸成することが可能になります。

本記事では、VUCA時代における人的資本経営を成功させ、従業員エンゲージメントを向上させるための具体的なアプローチについて解説します。人事担当者や経営層が抱える課題に対して、即実行可能な戦略を提供し、組織全体の変革を成功に導くための道筋を示します。これにより、優秀な人材を定着させ、持続的な生産性向上を実現するための基盤を築くことができるでしょう。


目次[非表示]

  1. 1.とにもかくにもセルフアウェアネス
    1. 1.1.セルフアウェアネス向上のメリット
    2. 1.2.セルフアウェアネスを高めるための具体的なアクションプラン
  2. 2.心理的安全性を高める組織形成の5つの基礎知識
    1. 2.1.醸成すべきマインドセット
    2. 2.2.育成すべき組織メンバーの2つの自己評価
    3. 2.3.マネジメントの方向性
  3. 3.身に着けておくべきノンテクニカルスキル
    1. 3.1.情報整理力
    2. 3.2.アクティブリスニング
    3. 3.3.アサーション
    4. 3.4.チームビルディング
    5. 3.5.ファシリテーション
    6. 3.6.リーダーシップ
    7. 3.7.コーチング
  4. 4.おわりに


とにもかくにもセルフアウェアネス

セルフアウェアネス向上のメリット

組織変革の第一歩として、社員一人ひとりが自身の強み、弱み、価値観、そして行動パターンを理解する「セルフアウェアネス(自己認識)」を高めることが重要です。このセルフアウェアネスが欠けていると、社員は自分の役割や目標に対する理解が曖昧になり、成果を上げるための適切な行動が取れなくなります。反対に、セルフアウェアネスが高まると、自己成長の意識が強まり、結果として組織全体の生産性が向上します。

セルフアウェアネスを持つ社員は、自己の強みを活かして業務に取り組むことができ、組織内での役割に対する明確な理解が促進されます。これにより、以下のメリットが得られます。

・自律的成長の促進

社員が自らの成長を主体的に追求するようになります。これにより、研修や教育の効果が高まり、学びを実務に活かすスピードが速くなります。

・リーダーシップと指導力の向上

自己をよく理解している社員は、他者とのコミュニケーションが円滑になり、自然とリーダーシップを発揮できるようになります。また、他者の成長を支援するための指導力も向上します。

・信頼関係の構築

セルフアウェアネスを持つ社員は、自分の感情や反応を理解し、他者に対しても適切な配慮をすることができます。これにより、チーム内での信頼関係が強化され、協力的な職場環境が醸成されます。

セルフアウェアネスを高めるための具体的なアクションプラン

セルフアウェアネスを高めるためには、以下のような具体的な取り組みが効果的です。

・定期的な自己評価の導入

社員が自身の強みや課題を定期的に振り返ることができるよう、内省を育む機会を設定することが効果的です。これには、自己診断ツールやフィードバックセッションを活用することが一般的です。

・メンタリングとコーチングの推進

社員が自己認識を深めるためには、正しいプロセスと適切で専門的見地から設計された『問い』が不可欠です。定期的なメンタリング施策やコーチングセッションを通じて、社員が自らの成長を意識できる機会を提供します。

・成長記録の促進

社員が自身の成長を可視化しやすくするために、個々の成長記録を作成・共有します。これにより、自己成長を振り返り、今後の目標設定に役立てることができます。

また、これらの取り組みを通じて得られた洞察や学びを言語化することが非常に重要です。言語化することで、自己理解がより深まり、次の行動や目標設定に自然とつながります。言語化された内容は、他者とのコミュニケーションにも役立ち、周囲からのサポートを得る上でも効果的です。こうしたプロセスを通じて、社員はより効果的に自己成長を遂げ、組織全体の生産性向上に貢献することができるでしょう。

心理的安全性を高める組織形成の5つの基礎知識

醸成すべきマインドセット

組織において心理的安全性を高めることは、社員が安心して自分の意見や考えを表現できる環境を作り出すために非常に重要です。心理的安全性が高い職場では、社員は自分の意見が尊重され、失敗やリスクを恐れずに新しいアイデアを提案できます。これにより、組織全体でのイノベーションが促進され、結果として持続的な成長と競争力の強化が期待できます。

ローカスオブコントロール

ローカスオブコントロールとは、個人が自分の行動や結果に対して責任をどの程度感じるかを示す概念です。心理的安全性が高い組織では、社員が自分の行動や結果に対する責任を内面的に感じることが奨励されます。これにより、社員は外的要因に責任を転嫁するのではなく、自ら問題を解決しようとする主体性が育まれます。この主体性が高まることで、組織全体の生産性が向上し、課題解決能力の向上が期待できます。

グロースマインドセット

グロースマインドセットは、社員が成長を信じ、挑戦を恐れない姿勢を持つことを指します。失敗を学びの機会と捉え、そこから成長しようとする姿勢が、社員一人ひとりのスキル習得と能力向上の基盤となります。心理的安全性が確保されている環境では、社員は挑戦を恐れず、新しい取り組みに積極的に参加することができます。これにより、組織は変化に柔軟に対応し、持続的なイノベーションを推進する力を得ます。


育成すべき組織メンバーの2つの自己評価

自己効力感

自己効力感とは、個人が自分の目標を達成できるという信念を持つことです。自己効力感が高い社員は、困難な状況でも粘り強く取り組む力を持ち、組織の目標達成に向けた意欲を高めます。自己効力感を持つ社員は、リーダーシップや課題解決の場面で積極的な役割を果たすことができ、組織の成功に大きく貢献します。

自己有用感

自己有用感は、自分が組織にとって価値があると感じることを意味します。自己有用感が高い社員は、自分の貢献が認められていると感じるため、エンゲージメントが高まり、組織への忠誠心が強化されます。これは、離職率の低下や、社員のモチベーション向上につながります。組織は、社員が自分の役割や貢献を実感できる環境を整えることで、より高いレベルの組織パフォーマンスを引き出すことが可能です。


マネジメントの方向性

リザルトファースト・プロセスファースト

リザルトファースト(結果重視)とプロセスファースト(プロセス重視)のバランスを取ることは、健全な組織成長において欠かせません。リザルトファーストのアプローチでは、目標達成や業績に焦点を当てることで組織の成果を上げることが期待できます。一方、プロセスファーストのアプローチでは、業務の進め方や過程に焦点を当てることで、持続的な成長と社員の能力向上が図られます。
この2つのアプローチをバランスよく取り入れることで、社員は目標に向かって効率的に働きながらも、プロセスを通じて新しいスキルを習得し、成長することができます。心理的安全性が確保されている環境では、プロセスにおける失敗や試行錯誤が受け入れられ、その中から学びが生まれるため、結果として組織全体のパフォーマンスが向上します。
これらの基礎知識を理解し、組織に適用することで、心理的安全性の高い職場環境を形成し、社員が持続的に成長し、組織全体でのイノベーションを推進する力を育むことができます。心理的安全性を土台にしたマインドセットと自己評価の強化、そしてマネジメントの適切な方向性の設定が、組織を次の成長段階へと導く鍵となるでしょう。


身に着けておくべきノンテクニカルスキル

現代のビジネス環境では、技術的なスキルだけでなく、非技術的なスキル、いわゆるノンテクニカルスキルが非常に重要視されています。これらのスキルは、組織の生産性向上やチームの協働、効果的なコミュニケーションに欠かせない要素です。以下では、特に重要なノンテクニカルスキルについて詳しく解説します。

情報整理力

情報整理力とは、複雑な情報を効果的に整理し、意思決定を支援する能力です。ビジネス環境では、膨大なデータや情報が日々生成され、それをどのように整理・分析して活用するかが、組織の成果に直結します。
情報整理力が低い場合、重要な情報が見落とされたり、データの関連性が正しく理解されなかったりすることがあります。その結果、意思決定が遅れたり、誤った結論に至るリスクが高まります。例えば、新製品のマーケティング戦略を立てる際に、市場データや顧客フィードバックが適切に整理されていないと、ターゲット層のニーズを正しく把握できず、販売計画が失敗に終わる可能性があります。
一方、情報整理力が高い場合、複雑な情報も分かりやすく整理され、関係者全員が同じ理解を持つことができます。これにより、迅速かつ正確な意思決定が可能となり、組織の目標達成に貢献します。例えば、プロジェクト管理において、各メンバーのタスクや進捗状況が明確に整理されていると、リソースの最適化や期限の厳守が容易になります。

アクティブリスニング

アクティブリスニングは、相手の話を深く理解するためのリスニング技術です。Rogers & Farson (1957) によると、アクティブリスニングは単に相手の言葉を聞くだけではなく、その言葉の背後にある感情や意図を理解することを目的としています。これにより、コミュニケーションの質が向上し、誤解や摩擦を未然に防ぐことができます。
アクティブリスニングは、特に心理的安全性を高める上で不可欠な技術です。相手の話をしっかりと受け止め、『受容』と『共感』の姿勢を持って接することで、相手は自分の意見が尊重されていると感じ、自由に発言することができるようになります。これにより、チーム内の信頼関係が強化され、建設的な対話が促進されます。
アクティブリスニングの欠如は、しばしば組織内の対立やコミュニケーションの断絶を招きます。例えば、マネージャーが部下の意見を聞き流すような態度を取ると、部下は自分の意見が軽視されていると感じ、次第に発言を控えるようになります。これが続くと、イノベーションの停滞や離職率の上昇に繋がるリスクが高まります。

アサーション

アサーションとは、適切な自己表現技術のことを指します。Alberti & Emmons (1970) の理論によると、アサーションは、相手の権利を尊重しつつ、自分の権利を主張するバランスの取れたコミュニケーション方法です。
アサーションの基本は、「相手も自分も大切にする」姿勢です。自己主張が強すぎると、相手との関係が悪化し、協力的な関係が損なわれることがあります。一方で、自己主張が弱すぎると、自分の意見が軽視される恐れがあり、結果として自分のニーズが満たされない状況に陥ることがあります。
アサーションが適切に行われることで、組織内外のコミュニケーションが円滑になり、ストレスの軽減にも繋がります。例えば、チームミーティングで意見の違いが生じた際、アサーションを用いることで、双方の意見が尊重され、建設的な議論が可能になります。また、アサーションは自己管理にも有効であり、ストレスの原因を明確にし、それに対処するための具体的な行動を取ることができます。

チームビルディング

チームビルディングは、効果的なチームを構築するプロセスです。Tuckman (1965) のグループ開発モデルによれば、チームは「形成期(Forming)」「動乱期(Storming)」「統一期(Norming)」「遂行期(Performing)」の4つの段階を経て成長します。

・形成期(Forming)

チームが初めて集まる段階で、メンバー同士が互いに探り合いながら役割を確認します。この時期は、リーダーが明確な目標設定や役割分担を行うことが重要です。

・動乱期(Storming)

メンバー間で意見の衝突が生じる段階です。ここでは、リーダーが対立を建設的に解決し、チームの一体感を醸成することが求められます。

・統一期(Norming)

チームの役割や規範が定まり、協力関係が強化される段階です。メンバーは互いにサポートし合い、目標達成に向けて協力します。

・遂行期(Performing)

チームが高い生産性を発揮し、目標に向けて効率的に活動する段階です。この段階では、リーダーはチームのモチベーションを維持し、さらなる成長を促進します。

チームビルディングは、これらの段階を理解し、適切なサポートを行うことで、チームのパフォーマンスを最大化することが可能です。

ファシリテーション

ファシリテーションは、会議やディスカッションを円滑に進行させる技術です。Schwarz (2002) の理論に基づき、ファシリテーションは、参加者全員が積極的に関与し、目的に向かって効果的に議論を進めるための枠組みを提供します。
ファシリテーションの主な役割は、議論の進行をサポートし、全員が発言しやすい環境を整えることです。また、議論が脱線しないように方向性を保つと同時に、異なる意見が出た場合には、その意見をうまくまとめて全体の合意を形成する役割も果たします。
効果的なファシリテーションが行われることで、会議が生産的かつ効率的に進行し、組織全体の意思決定が迅速に行われます。逆に、ファシリテーションが不十分だと、会議が長引き、結論が出ないまま時間を浪費するリスクがあります。

リーダーシップ

リーダーシップは、組織を導くために不可欠なスキルです。Kouzes & Posner (2012) のリーダーシップチャレンジモデルは、リーダーシップを効果的に発揮するための5つの実践項目を示しています。

 1.模範を示す:リーダーは自らが模範となり、信頼を築くことが重要です。

 2.共通のビジョンを共有する:リーダーは、組織全体が共通の目標に向かって進むよう、ビジョンを明確に伝える役割を果たします。

 3.挑戦を奨励する:リーダーは、新たな挑戦を奨励し、組織が成長する機会を提供します。

 4.他者を力づける:リーダーは、メンバーに権限を与え、主体的に行動できるようサポートします。

 5.心からの賞賛を送る:リーダーは、成果を認め、メンバーの努力を称えることで、モチベーションを高めます。

さらに、リーダーシップには、PM理論やシェアドリーダーシップの概念も重要です。PM理論では、リーダーは「業績指向(P)」と「人間関係指向(M)」のバランスを取る必要があるとされています。また、シェアドリーダーシップは、リーダーシップをチーム全体で分担し、各メンバーがリーダーシップを発揮することで、より柔軟かつ効果的な組織運営を可能にします。

コーチング

コーチングは、社員の成長をサポートするためのスキルであり、特にセルフアウェアネスを高めるために重要です。Whitmore (1992) のGROWモデルに基づくコーチング手法は、目標設定(Goal)、現状把握(Reality)、選択肢の検討(Options)、そして行動計画(Will)の4つのステップを通じて、個々の成長を支援します。
コーチングは、社員が自己の可能性を最大限に引き出し、自律的に目標を達成するための手助けをするものです。コーチは、指示を与えるのではなく、社員が自ら考え、解決策を見出すプロセスをサポートします。これにより、社員はより高い自己効力感を持ち、自分の力で課題を克服する自信を養います。
また、コーチングは、前述のセルフアウェアネスや心理的安全性の基盤の上に成り立つものであり、これらの要素が整っていると、コーチングの効果が最大化されます。結果として、社員のエンゲージメントが向上し、組織全体の生産性が高まります。
ノンテクニカルスキルは、単なる付加価値ではなく、組織の成功を支える重要な要素です。これらのスキルを意識的に身につけ、活用することで、組織はより強固で生産性の高いチームを築くことができるでしょう。

おわりに

VUCA時代を生き抜く組織変革の3つの鍵

本記事では、VUCA時代における組織変革を成功させるための3つの鍵として、セルフアウェアネス、心理的安全性の醸成、そしてノンテクニカルスキルの習得を解説しました。

1.セルフアウェアネスが組織変革の第一歩
社員一人ひとりが自己認識を高めることで、自律的な成長が促進され、組織全体の生産性向上に繋がります。自己評価、メンタリング、成長記録の促進など、具体的なアクションプランを実践することで、社員のセルフアウェアネスを高めることができます。

2.心理的安全性がイノベーションを加速
心理的安全性の高い組織では、社員は安心して意見交換を行い、新しいアイデアを提案することができます。ローカスオブコントロール、グロースマインドセット、自己効力感、自己有用感といったマインドセットを醸成し、リザルトファーストとプロセスファーストのバランスを取ることで、心理的安全性を高めることができます。

3.ノンテクニカルスキルが組織の競争力を強化
情報整理力、アクティブリスニング、アサーション、チームビルディング、ファシリテーション、リーダーシップ、コーチングといったノンテクニカルスキルは、組織の生産性向上やチームの協働に不可欠です。これらのスキルを習得し、組織全体で共有することで、組織の競争力を強化することができます。

これらの3つの鍵を組織に導入することで、従業員エンゲージメントを高め、離職を防ぎ、組織全体の生産性を向上させることができます。まずは、社員のセルフアウェアネスを高めるための取り組みを始めることから始めてみましょう。その後、心理的安全性を醸成し、ノンテクニカルスキルの習得を促進していくことで、組織変革を成功に導くことができます。
VUCA時代において、組織変革はもはや選択ではなく、生き残るための必須条件となっています。

本記事が、読者の皆様の組織変革の取り組みの一助となれば幸いです。



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